宮沢賢治『双子の星』は不思議なポエム?
宮沢賢治『双子の星』はあやしくて面白くて心が引きこまれます。それは・・・読み始めたとたん・・・ふわっとした不思議な、「ことばの玉手箱」を開けてしまったような、くらくら目まいがするような、感覚に見まわれます。不思議なポエムだと思いました。
星座オンチで日常リアルバカな私でも思わず夜空を見上げました。雨模様の暗夜で星はまったくみえませんでしたけれど 笑。
宮沢賢治・教諭時代(花巻農学校)出典https://shisokuyubi.com/bousai-kakugen/index-54 宮沢賢治は25歳で家出、上京しますが妹急病ですぐに帰り、同年に教諭の職を得ました。30歳で依願退職。没年は37歳です。
「双子の星」(宮沢賢治)のことばは、目で読むというよりは耳に聴こえてくるのです。文字が耳から入ってきます。書き出しは・・・
天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。
あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる 小さな水精のお宮です。
・・・ことばがトントントン、柔らかくタップしています。水精は水晶です。水晶のお宮。きれいですね、うつくしいですね。
宮沢賢治作詞作曲『双子の星』・・・高倉健主演映画で遺作となった「あなたへ」で妻役の田中裕子さん歌で挿入歌に。賢治は27曲の歌曲を残しています。
チュンセ童子は賢治を、ポウセ童子は早逝された妹さんを象徴しているようです。妹の亡き後、宮沢賢治が旅先から友人にあてた『手紙 四』で・・どなたか、ポーセがほんたうにどうなつたか、知つてゐるかたはありませんか。チユンセがさつぱりごはんもたべないで毎日考へてばかりゐるのです・・と書いています。切なくて哀しくなりますよね。
私の知っている星座は北斗七星一つですが、今度、夜空を仰いだら 賢治さんと妹さん 二人の座します双子座を探してみます。
双子の星(宮沢賢治)・・あらすじ。このポエムは二章構成です。
一章ではチュンセ童子とポウセ童子の双子星は、大烏(からす)と蠍(さそり)の大喧嘩を止めようとしましたが止まりません。強烈な相打ちで烏も蠍も倒れて動きません。チュンセ童子とポウセ童子の二人は烏の胸から蠍の毒を吸い出し命を助けます。蠍も二人の手厚い看護で息を吹き返しました。
しかし喧嘩騒動に巻き込まれ日が暮れて夜になります。
水精のお宮で銀笛を吹くというお役目を果たせないと王様から罰を受けなければならなくなりますが、間一髪、閃光とともに稲妻さんが現れ、あっという間にお宮に戻してくれたのです。お空のお宮に戻れた二人はきちんと銀笛を吹くことができました。
二章では、
彗星(ほうきぼし)が現れ「王様に二人を旅に連れて行ってと頼まれた」と言い、二人を尾っぽにつかまらせます。でもそれは彗星の嘘だった。彗星に振り落とされ双子の星は海の底に沈んでしまいます。海の底ではたくさんの海星(ひとで)が二人を悪しざまに罵ります。 ここへ落ちてくる奴は何か悪いことをした罰で追放されたのだ。罪状を書いたものを出せ など。恐ろしい形相の大きな鯨(くじら)はお前たちを一飲みしてやると脅します。
その時です。銀色の光がパッと射さして小さな海蛇がやって来ます。
この海蛇さん星の位置は「ハナニラ(花韮)の花言葉・「春の星空」「地上の星」・スピリチュアルメッセージ」の星座図でわかります。
海蛇は「あなた方は悪いことをなさって天から落とされたお方ではないように思われます」と言い、海蛇の王様のところへ案内してくれました。海蛇の王様は二人を竜巻に乗せてお空に帰してくれました。二人を騙した彗星は海に落ちてナマコになります。
この不思議な物語に解釈はいらないのかもしれませんね。
宮沢賢治作品はアートですね。読んだ人、見た人、聞いた人、それぞれが何かしらの感銘を受けます。それは人それぞれであっていいいのです。
私の場合は、彗星の嘘に騙されたチュンセ童子とポウセ童子の二人に感情移入しました。私自身がつい最近、ある人に嘘をつかれました。詐欺まがいです。双子星さんが騙されて振り落とされように、結果、私は住む家とお金を失くしました。夜になっても寝る家がない。生まれて初めてのどん底です。海の底です。たくさんの海星(ひとで)に、お前の罪状は何だ、騙されるお前が悪いと言われているよう気がしました。人生、オワコン、か・・・と思いましたが、しかし生き続けることが出来ています。
騙された悔しさ不甲斐なさ虚しさを早く忘れたい。
チュンセ童子とポウセ童子、二人の星の吹く笛に合わせてタップを踏めるようになりたいと思います。
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二人の星の吹く笛、銀笛(ぎんてき)はフルートだと思います。歌曲は宮沢賢治作詞作曲『双子の星』のテーマソング「星めぐりの歌」です。オルガンやチェロを弾き、クラシック音楽が好きだった彼は生涯27曲もの歌曲を残しています。ホントに不思議な方ですね。存在そのものが”詩”・・ポエムだと思います。
文末に「星めぐりの歌」の歌詞、音曲がわかるリンクを貼っておきました。
この『双子の星』が大、大、大好きな女性からlineメッセージをもらいました。紹介します。
夜空を見上げると、波打つ日常の心が穏やかに静まる。
一日中取り留めもなくああでもない、こうでもないと無意識に頭の中の呟きが散乱し、はて本心はどこへいったかと心もとなく感じた時。幾つかしか数えられない星を見たくなった時、ベランダへ出て夜空を眺める。単純にそんな時間が好きだったから、夜空を思い浮かべられる「銀河鉄道の夜」を手に取った。
何十年ぶりだろう。その中に含まれていた短編が「双子の星」だ。この短編は、読み始めから言葉が新鮮な輝きを持って降り注いできた。
最初から話の内容よりも、言葉の美しさに夢中になった。双子の星の会話が、情景をはっきりと思い浮かべられる美しい言葉の宝庫のようなのだ。
「東の空はまるで白く燃えているようですし、下では小さな鳥なんかもう目をさましているようです。風車で霧をこしらえて、小さな虹を飛ばして遊ぼうではありませんか。」
このような例えの言葉を、私はこれまで見たことも聞いたこともない。こんな表現の仕方があるのかと感嘆せずにはいられず、始終このように続く美しい情景のやりとりに夢中になった。
世の中には言葉が溢れている。雑誌、ネット、あらゆる所に、ああでもないこうでもないが溢れている。その多くは、どこかで聞いたことのある言葉、ともすればネットで見かけた言葉をそのまま使っていることに気付きもしていないのでは? と恐ろしくなることがある。自分の言葉を話したいのだ。世間で知った言葉ではなく、私にしかない感情を私だけの言葉で丹念に表現したいのだ。そのことを「双子の星」を読むことで鮮やかに思い出した。
この物語の言葉は、世界中でたった一つしかない、とてつもない宝石があらゆるところに散りばめているようなお話だ。この美しい言葉の宝石の中に1秒でも長くいたい、もっとこの言葉を読んで包まれていたい。
ああ、これは世界でたった一人の愛する人の言葉をずっと聞いていたい気持ちに似ているのかもしれない。恋に似ているのかもしれない。
物語で双子の星の童子は騙されて海の底に落ちるが不思議な導きで夜空に帰ることができる。この物語を読んでから、夜空を眺める楽しみが一つ増えた。この夜空のどこかでチュンセ童子とボウセ童子が清らかに微笑んでいる気がして、口元が緩むのだ。見えない星を探し、私だけの言葉を、心を、今夜も夜空を見上げながら探し続けるだろう。
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世間で知った言葉ではなく、私にしかない感情を
私だけの言葉で丹念に表現したいのだ。
そのことを「双子の星」を読むことで鮮やかに思い出した。
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そうかぁ、すごいです。教えられました。ありがとうございます。
あなたの”恋心”は天空の”水晶のお宮”にとどきますよ、きっと。いっぱいいっぱいの星々さんといっしょに声を合わせて応援したい。
**注
文字装飾、黄色アンダーラインは
私が勝手に加えました。
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美しい言葉の宝石・・・
玉手箱には言葉の宝石がつまっているのです。
宮沢賢治が手渡す「ことばの玉手箱」を開けるとき、
わたしたちの命にあらたな力がよみがえります。
「ことば」にマンゴジュースのような、
生き生きした力が、降りてくると思います。
「星めぐりの歌」
宮沢賢治作詞作曲
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。
https://www.uta-net.com/movie/228100/