写真:西村賢太(2022年2月5日54歳没)
西村賢太氏は不思議な私小説作家でした。「私小説」は「私」が主人公です。ろくでもない私がろくでもない自堕落な貧乏生活を披露します。陰々滅々となりそうですが、西村賢太氏(54)の場合はそのろくでもない無頼ぶりがそういう印象をあたえない。芥川賞選考委員であった石原慎太郎氏(2022年2月1日没89歳)が西村賢太氏の文章に「身体性」があると高く評価しつづけました。
石原慎太郎(1956年芥川賞・24歳)西村賢太(2011年芥川賞・44歳)、、、キャラクターは真反対にみえます。
西村賢太・石原慎太郎は真反対性格にみえるが文学的には一致
西村氏本人がこう言っています。・・西村賢太対話集(新潮社)117P・・
「石原さんは、僕みたいな、僕の小説の主人公みたいのが、一番人間的に許せないタイプだと思っていました」
僕みたいな、僕の小説の主人公・・・貧乏で癇癪持ちで酒飲みで同棲女を殴る蹴る・・・たしかに石原氏の作品主人公では絶対にありえません。しかし石原慎太郎氏はこう応じています。
写真:石原慎太郎(2022年2月1日89歳没)
「とんでもないよ。だって、君の作品には身体性があるだろう。この頃の作品ってね、あなたのを除いたらどれも身体性がないんだよ。小手先の話で、無国籍でね、ぜんぶ絵空事なんだ。それに変に技術的でさ。
江藤淳がいたらみんなボロクソに言うだろうけど。大方国籍もどこでもいいんだ。村上春樹もそうだろう。なんで「ノルウェーの森」だか、さっぱりわからない。音楽がくっついてるだけの話でね。
う~ん、。
西村賢太作品はたしかに^^日本国内です。日本人ですね。無国籍ではない。作品タイトルをみても、たしかに・・・です。
西村賢太作品タイトルが放つ圧倒的な国籍日本の「身体性」
墓前生活(処女作・同人誌『煉瓦』28号)
どうで死ぬ身の一踊り(『群像』2005年9月号)
一夜(『群像』2005年5月号)
けがれなき酒のへど(『文學界』2004年12月号)
暗渠の宿(『新潮』2006年8月号)
『二度はゆけぬ町の地図』(2007年10月 角川書店、2010年 角川文庫
貧窶の沼(『野性時代』2007年7月号)
春は青いバスに乗って(『煉瓦』29号、2004年1月)
潰走(『野性時代』2006年2月号)
腋臭風呂(『野性時代』2006年12月号)
『小銭をかぞえる』(2008年9月 文藝春秋
小銭をかぞえる(『文學界』2007年11月号)
焼却炉行き赤ん坊(『文學界』2008年6月号)
『瘡瘢旅行』(2009年8月 講談社 2011年「廃疾かかえて」新潮文庫
廃疾かかえて(『群像』2008年11月号)
瘡瘢旅行(『群像』2009年4月号)
膿汁の流れ(『群像』2009年6月号)
『人もいない春』(2010年6月 角川書店 2012年角川文庫
人もいない春(『野性時代』2008年7月号)
二十三夜(『野性時代』2007年10月号)
悪夢 ― 或いは「閉鎖されたレストランの話」(『野性時代』2006年6月号)
乞食の糧途(『野性時代』2008年12月号)
赤い脳漿(『野性時代』2010年2月号)
昼寝る(『野性時代』2010年4月号)
『苦役列車』(2011年1月 新潮社 ISBN 9784103032328 2012年新潮文庫 ISBN 9784101312842)
苦役列車(『新潮』2010年12月号)
落ちぶれて袖に涙のふりかかる(『新潮』2010年11月号)
『寒灯・腐泥の果実』ISBN 9784101312866)
陰雲晴れぬ(『新潮』2010年8月)
腐泥の果実(『新潮』2011年2月)
寒灯(『新潮』2011年5月 )
肩先に花の香りを残す人(『東と西 2』(2010年7月 小学館)
『棺に跨がる』(2013年4月 文藝春秋2016年4月 文春文庫
棺に跨がる(『文學界』2012年5月)
脳中の冥路(『文學界』2012年7月)
豚の鮮血(『文學界』2012年11月)
破鏡前夜(『文學界』2013年2月号)
などなど。
いろいろ。
もう、たしかに、わ、ぁぁぁ、迫力です。「身体性」とは具体的な個別的なその人間でしか発せない言葉。西村賢太の言葉でしかありえない魅力です。世界中の文学を集めても、類似の言葉はない。西村賢太でしか使わない、使えない、とおもわれますね。
「寒灯」「小銭をかぞえる」の二作品をつよく推したのが石原慎太郎さんです。西村賢太氏の芥川賞受賞作は「苦役列車」です。
そういえば、『太陽の季節』にはじまる石原慎太郎作品のタイトル言葉にも、『処刑の部屋』『聖餐』『狂った果実』『化石の森』(芸術選奨文部大臣賞)『生還』(平林たい子文学賞)120万部を売り上げの『弟』は(毎日出版文化賞特別賞)、、と、、たしかに^^どれもこれも^^文学作品としては石原慎太郎でしか発せない発しない日本語の「身体性」が横溢しています。
西村賢太プロフィール 石川県七尾に生前墓
(1967-2022)1967(昭和42)年、東京都生れ。中卒(町田市立中学)。2007(平成19)年『暗渠の宿』で野間文芸新人賞、2011年「苦役列車」で芥川賞を受賞。刊行準備中の『藤澤清造全集』(全五巻別巻二)を個人編輯。文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』を監修。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『廃疾かかえて』『随筆集 一私小説書きの弁』『人もいない春』『西村賢太対話集』『随筆集 一日』『一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『やまいだれの歌』『痴者の食卓』ほか。
父親が性犯罪で逮捕され両親離婚。西村賢太本人は泥酔状態での暴行逮捕2回。
波 2012年5月号より 私小説の伝統芸をそのまま生きる
豊崎由美(書評家) ↓
西村賢太はぶれないなあ。「笑っていいとも!」を見ながら、思わず頬がゆるんだのである。「ちょっと怪しい課外授業」というコーナーに出演して「楽しい独身生活を送るための心得」を披露した賢太は、「嫁は老けていく一方だから結婚するのは損」「自分のため以外にお金は使いたくない。女性にプレゼントするのは躯目当て」「デリヘルに行く時は、自分のことを知っていたらノーマルプレイ、知らなかったら(以下自粛)」など、昼時の番組であるのを一切考慮に入れない、いつもどおりの顰蹙上等発言を連発して、タモリをはじめとする出演タレント陣に呆れられていた。
しかし、長年の賢太ファンはお見通しだ。芥川賞受賞記者会見の「(結果の報告を待ちくたびれて)そろそろ風俗に行こうと思っていた」というひと言が話題になり、通帳の残高が一気に三千万円を超えた経験から、普通なら眉をひそめられるような言動が、こと自分に限ってはプラスに働くことを察知したクレバーな賢太は、露悪と称される私小説の伝統芸をそのまま生きることを決めたのである。だから、小説家なのにナベプロ系列の芸能プロダクションに所属するし、テレビにもラジオにも出演し、おのが恥部を突きつけ、ちんけな欲望を隠してお上品をきどっている小市民に笑われながら嘲笑っている。
・
町田康、島田雅彦、朝吹真理子、高橋三千綱、坪内祐三、石原慎太郎、上原善広、高田文夫との対談や座談を集めた『西村賢太対話集』は、そんな芥川賞受賞以降の賢太の、時に率直、時に愚直、時に狡猾、時に卑屈、時に明朗、時に真摯、時に嘘つきな発言をたんまりと楽しめる一冊になっている。
「(芥川賞受賞後に仕事が増えないことをぼやき)普通、芥川賞をとると朝日新聞がまず来るじゃないですか。僕のとこには来ませんね。いま頼まねえで、いつ頼むんだ(笑)」
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石川県七尾市小島町の西光寺(さいこうじ)にある藤沢清造墓の隣に西村賢太氏は自身の生前墓を建てていました。
西村賢太氏は「藤沢清造の没後弟子」と自認していた。。。
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↑ 2022年2月7日 中日新聞撮影
藤沢清造命日(1月29日)には毎月お参りしていた。。。「2月は28日に来ます」と話していたと住職の高僧英淳(こうそうえいじゅん)さん(69)。
#読了
「苦役列車」西村賢太終わる事の無い苦役と、恵まれた周りの人達へのやり場の無い怒り…
性犯罪者の父により主人公の将来の希望は砕け散った劣等感と自尊心に塗れ、周りにあたり散らす主人公は好みが別れると思うが、今まで読んだ小説の中の人物で1番自分に近い性格で人間臭いと思った。 pic.twitter.com/Z8E8KBAKgj
— 彩羽 iroha 低浮上かも (@iroha88019031) December 23, 2021
列車から降りた?西村賢太さんは・・・?
ひとり法師(一人ぼっち)の西村賢太さんには相続人はいない・・・誰がその意志を継ぐのか?
彼女のお母さんの方からは、受賞直後すぐに電話がきました。何を言われるのかと思ったら、「おめでとう」って。「少なくとも三十万円は賞金で返しますから」と言ったら、「いいのよ。本当におめでとうね」と言ってくだすって。(坪内祐三×西村賢太「“芥川賞の面汚し”とも言われてますけどね」)
— 西村賢太bot (@nkenta_bot) November 27, 2020
↑これ、本人ではありません。BOTはロボットの略です。本人はこう言っています。
ツイッター
「私は現在も過去にも未来にも、そうしたものは一切行っていないし、行うつもりも全くない。何が楽しくて、金に換わらぬ無料サービスの文章を書く必要があろうか」
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西村賢太氏本人のおもいきしの笑い声が聴こえてくるような気がします。
タクシー乗車中に急逝、コロナ説も、死因は不明、事件性はない。
2022年2月5日、タクシー乗車中に作家・西村賢太氏(54)は亡くなりました。
西村賢太さんの死因を警察で調査、タクシー内で具合悪くなり病院搬送も心臓停止状態
「苦役列車」「小銭をかぞえる」などの破滅型の私小説で知られる芥川賞作家の西村賢太(にしむら・けんた)さんが5日朝、東京都内の病院で死去した。
4日夜に東京・赤羽から乗車したタクシーの中で具合が悪くなり、そのまま病院に運ばれたが、心臓が止まっている状況だった。医師が蘇生を試みたが、再び心臓が動くことはなかった。死因は警察で調査している。
(日刊スポーツ)
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西村賢太さんの死去原因
ワクチンなんじゃねーのって思ってしまう私…これ、心筋炎で終わらせそうだな pic.twitter.com/WqUZctbP0S
— ちる(まーちゃん) (@chiruco_10) February 5, 2022
ま、原因不明では、コロナ説などなどの揣摩臆測が飛び交いますが・・・?
その後の警察発表がないのは、殺人・・などの事件性は皆無ということです。
まとめ
『人生は無頼な情熱を演じる劇場である』
と石原慎太郎氏に記してもらった色紙は、西村賢太氏の仕事部屋の壁上高くに掲げてあるそうです。
藤沢清造・・1月29日命日
石原慎太郎・・2月1日没
西村賢太・・2月5日没
先輩2人に導かれるように追うように旅立った西村賢太氏です。
なにか、不思議な霊的因縁を感じます。
あらためてご三方のご冥福をこころより祈らせていただきます。
追記::
西村賢太の絶筆となった・・胸中の人、石原慎太郎氏を悼む…西村賢太
は、こちらをどうぞ↓
石原慎太郎氏をしのぶ追悼文全文は、 (読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20220201-OYT8T50129/