今週の週刊文春「普天間返還はなぜ迷走したのか」。辺野古は欠陥基地?

小川和久(軍事アナリスト)キャンプ・ハンセン陸上案で決まりかけた事が何度かあった。

2020年5月7日・14日合併号週刊誌の中で、コロナ関連以外で抜群に面白かったのは週刊文春の「普天間返還はなぜ迷走したのか ”交渉人”の告白 」でした。

”交渉人”とは『フテンマ戦記』(文藝春秋社2020年3月初版)著者の軍事アナリスト小川和久氏です。

この大問題、私はまったくの無知蒙昧です。イデオロギー的な反米左翼、日米安保反対派が辺野古移転に反対し続けているために ”迷走”していると思っていました。民主党政権誕生での鳩山由紀夫総理が移転先は「最低でも県外」と宣言し混乱、あげく「やはり辺野古」と本筋に回帰の右往左往が迷走の最大要因ではなかったか、と。

むろん鳩山由紀夫氏の不明瞭な言動、それも一要因です。しかし、もっと重大な問題、基本の基本、基調となる部分に問題があると小川和久氏は述べています。

それは・・・辺野古は米軍海兵隊には役不足な基地・・・だというのです。

辺野古は米軍海兵隊には役に立たない理由

・狭すぎる(普天間基地の43%)。

海兵隊は地上部隊が主力で兵隊4,5万人規模で動く。4,5万人の装備を空軍輸送機が次々降ろすが集積するスペースが辺野古にはない。

・滑走路が短すぎる。

辺野古滑走路は1200メートルだが、海兵隊が運用する固定翼機(FA18戦闘攻撃機、KC-130給油・輸送機)には2000メートル必要(普天間滑走路は2800メートル)。1200メートル、最大1800メートルまで伸ばしても大型輸送機も離発着できない。

図は『フテンマ戦記』271P 辺野古滑走路

役立たない軍事基地なら、なぜアメリカが了承したのか。日本側が米軍海兵隊の軍事機能をしらないまま辺野古移転を決めたと同様にアメリカ側当局の官僚、シビリアンも直接的には軍事は無知のうえ、アメリカとしては移転先の決定は日本の国内問題という立場だった。日本が決めればそれをどう運用するかを決めるのはアメリカということです。辺野古が狭ければ、普天間返還を先延ばし、あるいは利用できる民間空港を使う・・・え? と思いますが・・・緊急事態(戦争、大災害)では日本も有無を言わない、言わせない・・・。

日本国内では外務省と防衛庁の対立もありました。普天間返還決定は外務省主導で進行しました。移転先は防衛庁でやると防衛庁が気合を入れる。そのどちらも海兵隊の軍事機能には無知だったのです。アメリカは辺野古でOKと言った・・・言葉が一人歩きします。

アメリカは日本の国内問題という扱いですから日本側が辺野古でいきたいと伝えると頷きます。これを錦の御旗にして辺野古プランが走り始め、そして大手ゼネコン、沖縄の地元土木建設業者が動きます。政治家や実力者が絡みます。辺野古プラン一案だけがどんどん進行し、止められなくなったのです。

既成事実の積み重ねという現実社会のエネルギーです。

元外務省官僚の岡本行夫氏(故人)が暗躍しますが、『フテンマ戦記』には・・・

「日本はアメリカに守ってもらっているんだ。日本が文句を言うようなことがあれば、アメリカは直ちに日本から撤退するだろう。しかし、フィリピンから撤退することは絶対にない。横須賀なんてフィリピンのスービックに比べれば50分の1、100分の1の価値しかないんだよ」と、1991年12月に言ったが・・その翌年、アメリカはフィリピンから撤退した。

笑えるのは小泉純一郎元総理の鳩山由紀夫評です。小川和久氏が問われて「決断力が・・・」と答えかけると「決断力じゃないんだ。決断する前に、判断力が全くない」と遮(さえぎ)った。『フテンマ戦記』287p。

小川氏は軍事アナリストとして、小泉・安倍・福田・麻生・鳩山など時の政権に招かれ普天間返還問題に関わってきました。小川氏の提案は海岸埋め立ての辺野古ではなく、沖縄本島北部の米海兵隊演習場「キャンプ・ハンセン陸上(活用)案」を提示しています。

米海兵隊演習場「キャンプ・ハンセン陸上(活用)案」は過去何度か決定案になりかけたことがあります。

小渕恵三内閣(1998年~)当時の野中広務官房長官がゴーサインを発したのです。が、その野中氏がなぜか急に「ここまで」とストップをかけました。

民主党鳩山由紀夫内閣(2009年~)では鳩山首相が「これでいく」と決め、小川氏を密使としてアメリカに送り込みました。ところが小川氏渡米中に急転、鳩山首相は辺野古案に転換してしまった。アメリカでテレビを見ながら「バカヤロー!」と小川氏は叫びます。

↑ 図は『フテンマ戦記』37pより

キャンプ・ハンセン移転案のメリット

・短期間で普天間基地危険性の除去が可能になる。

・普天間基地と同様の2800メートル級の滑走路を作れる。

・沖縄本島北部を中心に巨大な雇用が生まれる。

・建設費用が辺野古より格段に安く抑制できる。

辺野古移設 計画見直し 経費2・5倍超 9300億円に膨れる

2019年12月26日、「辺野古移設 完成に12年 計画見直し 経費2・5倍超 9300億円」・・読売新聞・・など新聞各紙は一斉に報道しました。建設費と工期が膨れ上がったのは、軟弱地盤対策が必要であることが新たに分かったからです。

巨額の費用を追加して順調に工事が進展しても、まだあと、12年もかかる。返還合意(1996年4月17日)から36年が経過することになります。普天間基地の危険性除去という当初目的は消えたも同然ではないでしょうか。

小川氏は

これは辺野古案が実現不可能だということを自ら証明するための、あたかも自爆作戦の様相を呈している感がある。政府は引っ込みがつかなくなったこともあり、諦めに等しい計画を提示したのではないかとさえ思われてくる。

さらに、

2020年1月20日、第201通常国会での安倍首相の施政方針演説から、2014年以来初めて「普天間」と「辺野古」の文言が消えたが、偶然だろうか。

と『フテンマ戦記』あとがき361pで述べています。

しかし小川氏は決して諦めていません。

・・・普天間問題を解決するために、頭を仕切り直しの方向に切り替えてみよう。2018年3月までに契約された1426億円が業者への支払いで無駄になるというが、そうではない・・・

・・・キャンプ・ハンセン陸上案なら、空港本体の建設費が490億円、工期も環境アセスメントを含めて4年ほである。3500億円あれば辺野古の埋め立てに要した経費を支払い、まだ数百億円が余る。辺野古に固執した場合の9300億円都の差額、6000億円ほどを沖縄振興策に使うこともできる・・・

米国政府は、海兵隊の作戦と訓練に必要な条件を満たす飛行場が早期に完成し、沖縄県民の一定の理解が得られれば、それ以上、日本の内政である普天間問題に介入してくることはない。日本の政治家、官僚、マスコミに足し算、引き算という四則計算の基礎学力が備わっていれば、費用対効果に優れた移設案を選択するのではなかろうか。

・・・・・・・。

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